夢屋。 二夜 *仕事*

楽器とは投げ捨てるものなのです!
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日も暮れ、夢屋には何とも奇妙な客たちがやってきた。
「いらっしゃい。今日はどんなの?」 志は、奇妙な客一人(?)一人、をしっかりと見つめて、頷く。
「……じゃあ、君はこの青い札ね」 にこりと笑うと、志は青い札を渡した。受け取った客は、ふわふわと店の奥に消えていく。
「はーい、では次の方ー!あ、順番ですよ、抜かしちゃだめですよー!」 列を正すのは、夢(りむ)の仕事だ。

さて、その奇妙な客人とは。
……ふわふわである。
は?と思った方もいられるかもしれないが、ふわふわである。
夢屋には、毎晩ふわふわがやってくる。そして、夢を見る。

それは人の感情の塊。
就寝時に、感情の塊が持ち主の体を抜け出す。
すると、決まって夢屋にやってきて、夢を見る。
その夢は、電波か何かによって、持ち主の体に伝わるようだ。

「はい、じゃああんたは…どういうのがいいかな?」 やがて、札を配るので3時間がたった。
だいぶふわふわの数も減ってきて、あとはりむでも出来る仕事になってくる。
「師匠、手伝いますか?」 「いんや、いいよ。札を配んのも、僕の大事なしごとだかんね」 少々なまりのはいった口調である。
ふわふわの一つ?一人?に語りかけ、頷き、にこりと笑って札を渡す。……見た者を安心させる笑みだ。

「りむちゃん」 「あ、はい!何でしょう?」 ぐうたらな男と言えど、師匠。返事はしっかりしなくてはいけない。
「……お仕事手伝うんなら、一つ条件」 そう言いながら、札を渡す手はやめない。
「悪夢に対応できる、自分の武器を見つけなさいな」 「……は?」
りむがあっけにとられていると、「よし、札配りは終わった」と腰を上げた。

ここから、志の仕事ははじまる。 「袋持った?」 「はい、持ちました!」
志は満足そうな笑みを浮かべ、りむの手を取り目を閉じる。
同時に、りむも目を閉じなければならない。
志の握る手に少し力が入ったかと思うと、二人の姿は消えた。

……志は「夢人(ゆめじん)」という種族である。
見た目は人ながらも、全く人ではない性質をもつ。
たとえば、さっきのようにどこかへワープすることが、夢人の特徴だ。
それと…夢人自身は夢を見られないのも、一つの特徴である。

話を戻そう。
先程消えた二人は、ふわふわの大量に集まる空間に出た。
そこで志は声を張り上げる。「はーい、白い札持った人、夢へご案内しまーーーす」
するとふわふわは、すいーっと動き、志の後をひっついていく。 「…す、凄い数ですよね、いつも見てるんですが」 りむはこれがちょっと苦手だ。

志は有る処に着くと、手を振りかざした。
そこにはぽっかりと白い穴があき、ふわふわは元気よくそこに飛び込む。志とりむもそこにつづいた。
ふわふわは規則正しく並ぶと、動きをやめた。……夢を見始めているのである。
「『白の間』は『感情の間』。どうしても求めたい愛情を求めに、ここにやってくる」 「……いつかのあたしみたいですね」

りむは昔、悪夢だった。
家族もおらず、友人関係もうまくいかない。
そんなとき、りむの心は悪夢に乗っ取られてしまい、この夢屋にふわふわを襲いにやってきた。
その悪夢を解除し、悪夢から夢へと戻したのが、志である。

助けられた悪夢は、確実にその事を忘れる。しかし、りむは違った。
「道を間違えた…」と、お昼の夢屋にやってきたのである。(そのとき志は寝ていた)
悪夢から助けられたのも覚えていたし、何よりも生身の人間(しかも少女)が、夢屋のある異次元世界にやってこれた。
助けられたことを感謝し、立ち去ろうとしたりむに志は言った。 『おめでと。あんたは40人目の夢屋だ。今日から僕の跡継ぎとして、頑張ってもらうかんね』

(あの時師匠は……なぜあたしなんかを選んだんだろう……)
と、考えに浸っていると……例の化け物がやってきた。
「……きたね」「き、来ましたね!」 それは、黒々としたどろどろな化け物。
『悪夢』である。

志は腕をスッと上げ、振り下ろした時には、白い大きな剣を持っていた。
志の身長より遥かにバカでかい剣。それを志は軽々と振り回し、地面に突き刺す。…地面が割れた。
「……一夢(いちむ)」 ←武器の名前。
(うっ、うわーー!地面が割れた!) りむは一夢の刺さった地面を見て、青くなる。もしあれに刺されたりでもしたら……。

「……こんばんは、悪夢さん」 さっきと変わらぬ笑みを浮かべ、風のような早さで悪夢のもとへ。
どろどろの腕を振り上げ、志に襲おうとする。が、振り回した一夢によって、それは無理な話となる。
「ほっ、よっ、とっ!」 飛び散ったドロドロを集めるのが、いまのところりむの仕事だ。(これを乾燥させるとおやつになる)
このドロドロがふわふわにかかると、悪夢を見始めてしまうので、こんな仕事でも結構重要だ。

「さて……あんたはどんな夢が見たかった?」
これに心を開かれたりむ。何度見ても、ぐっとくるものがある。
『……俺は……ミュージシャンになりたかったんだ……』 ドロドロが口をきいた。
「へぇ…それで?」 『…周りの人間がっ…お前には無理だって…母親は、無理な夢だ、もっといい職を探せって…』

ドロドロが震える。 「……周りに否定されたから、もう駄目なのかい?」
『…え?』 「僕が見る限りでは君、歌うまそうじゃないか。きっとやれる。否定されても、自分の『志』と『夢』を貫き通すんだ」
これが、志のもつ「カウンセラー」である。負の塊に閉じ込められた夢を、解き放つことができる。
「はい、あんたは『願いの間』の『黄色の間』のお札」 志が、黄色の札を渡す。

するとどろどろは、光り輝いたふわふわになり、『白の間』から出て行った。今は『白の間』。順番待ちだ。
「やりましたね、師匠!」 「うん」 志は一夢を振り回し、消した。
「今回のは簡単だったね」 「そうですね、たまに凄く手ごわいのが来ますし!」
一度悪夢が来れば、もうその日はやって来ない。一つの間につき、一日一回だが…。

そのあとは、順番に仕事をこなし、悪夢を退治。そして、その日の仕事は終了した。
戻ってきたときには、もう東の空がほんのりと明るくなっていた。
ほどなく志は帳場に倒れ込み、眠り始める。 「……師匠ったらー……」
注意したいが、りむも眠い。倒れるようにして、りむも帳場で眠りこんでしまった。



   
   
「夢屋。 二夜 *仕事*」管理人:マイナス  
   
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